君と私で、恋になるまで
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「ど、どきどきした…!!!島谷さん大丈夫!?」
「…あんた、何処まで走らせんの。」
「いやあの人を振り切るには相当離れた方が良いかなと思って…」
ジャガイモから離れて、恐らく5分以上は走った。
ビルの最寄りとは正反対の方向へ走り続けた私達は道の脇で絶え絶えの息を整えている。
「……しかもあの人の名前、笹女じゃなかった?」
「え!!」
「…まあ、どうでも良いか。」
「…凄く失礼だけど、島谷さんのお弁当にポテトサラダ入ってたでしょ?それ見て、あ、この人芋っぽい顔してるなと思ったら名前覚えられなかった。」
そう申告する女に、記憶を辿る。
だからあの時、男が懸命に語ってる時私のお弁当見てたのか。
なんなの本当、この女。
私が思わず少し声を出して笑えば、女も花が咲いたように笑う。
「……連絡先、知りたいって何?」
漸く息も整ってきたところでそう尋ねれば、女は心無しか赤い顔のまま眉を下げる。
「お昼の時とか、島谷さんと話すの楽しかったなと思って。終わったら話しかけようと思ってたけど、ヘタレで尻込みしてたらあの人が島谷さんに詰め寄ってたから、焦ったよ……。」
"話すのが楽しかった"
私が思っていたのと同じことを言う女に、パチパチと目を瞬いてしまった。だけどそれと同時に、じわりじわりと心を侵食してくるこの気持ちは多分、"嬉しい"な気がしている。
「……じゃあとりあえず、一緒に夜ご飯食べれば良いんじゃ無い。」
「へ?」
「食べながら、私はあんたに福利厚生のこと教えれば良いの?」
「…じゃあ私は孤独のグルメのこと教えれば良い?」
「まじで興味無いわ。」
私が正直にそう言えば、「なんでよ!!」と焦ったように言う枡川 ちひろに笑ってしまった。