君と私で、恋になるまで

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「枡川、瀬尾のことなんて呼んでんの?」

「古淵君、拷問はやめてください…」


ランチを終えてビルへと帰る道すがら、ちひろはアホ古淵の恥ずかしい質問を受けて項垂れている。


それを後ろから見てクスリと笑うと、隣のダルそうな男がこちらを見ているのに気づく。


「…何。」

「島谷の、ちひろへのまじで重い愛は何なんだろって思ってるだけ。」


抑揚の特に無いそれに顔を顰める。

誰が重いだよ、って言いたかったけどそれは正直否定が出来ない。




でも。



___そんなの、当たり前でしょ?



「…あんたなんかより、
私とちひろの絆はずっと前からあんの。」


ざまーみろ、と笑ってやれば今度は瀬尾の方が不服そうに瞳を細める。



無事に2人ともこの会社に受かって。

誰かと喜び合うなんて、蹴落とし合うのが普通だって捻くれた考えを持ってた就活で想像もしてなかった。



それに私は、人の恋愛に口を出す熱量は無駄だと思ってきたタチだ。

恋愛絡みで女友達がしゃしゃり出るみたいなやつは全く理解出来なかった方だったわけ。



____だけど。

あの女だけは、絶対幸せになってもらわないと困るって、そういう気持ちになるんだから私が1番予想外だわ。



「……瀬尾。」

「なに。」

「ちひろ泣かせたら殺す。」

「……こわ。」


こんな台詞を態々友達の彼氏に言うなんて想像もしてなかった。


瀬尾は私の発言に嫌そうな顔をしてたけど、チラリと前を歩いて古淵と何やら言い合っているちひろを見てふ、と笑う。


「でもまあ、約束する。」

怠そうな様相のくせに、やけに嬉しそうに破顔するから、千歩譲ってとりあえず許してやることにする。



episode00.「天然な記念物」


恋にどうしようも無くヘタレで
笑うと可愛い天然なあの子は、

私に色んな初めての経験を
させてくる"記念物"なので。

ちゃんと、ずっと大事にしてよね。



fin.


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