君と私で、恋になるまで
瀬尾とのことは、自ら言う筈もないし、勿論あの男も人に態々公言するタイプでは無いので、さほど広まらないままだったのだけど。
梨木ちゃんが配属されて間も無い頃。
同じく後輩ができたと喜んでいた古淵が、有里君と4人でランチに行こうと提案してきて。
"…古淵、あの2人バッッチバチなんだよ?気付いてないの?"
"アホだな枡川〜、そういう時こそ同じ釜飯食べるんだろ?"
"あのね、同じ釜の飯を食べてきてないから仲が良く無いの、今更食べてもダメなの!"
アホはお前だ!と突っ込んでも「まあまあ」と良い笑顔で言いくるめられて、胸を違う意味でドキドキさせながらランチへ向かった時。
案の定弾まない会話の中で、古淵が本当にポロッと、
「ど、同期でも色々だな!枡川みたいにラブラブなとこもあるし!」
「「…………ラブラブ?」」
かましてくれた失言により、仲の悪い筈の2人はとても綺麗にハモリを見せた。
結局誤魔化すことも出来なくてその場で話をしたけど、梨木ちゃんだけでなく有里君も特に誰かに噂話することも無く、今もそこまで広まったりはしていない。
「古淵により、後輩に秒でバレました。」
"流石だな。"
「……広めたりする子達では無いと思うけどね。」
"別に隠してるわけじゃ無いし。
それとも、ちひろは俺とのことバレるの嫌なの。"
「…そういう言い方されますか?」
"されますね。俺は言いふらしたいくらいなのに。"
「それは嘘だよ。」
"うん、嘘。でもちひろが好きなのは本当だけど?"
「…き、急になんなんですか?」
電話でその一件を話した時、いつものロートーンで飄々とそんなことを伝えてくるあの男の緩急にやっぱり負けた気持ちになりながら、私も結局、表情を崩した。