君と私で、恋になるまで
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「…げ!!!」
サラリーマンに人気の定食屋さんを後にして、フロアに向かうエレベーターを乗ろうとした瞬間、梨木ちゃんの顔には全く似合わない怪訝すぎる声がその空間に響く。
「お〜お疲れ!!」
「……お疲れ様です。」
そこには、地下1階から乗ってきたのであろう古淵と有里君。
2人は私たちを視界に収めた後、面白いくらい正反対のテンションで挨拶をしてくれた。
互いにガンを飛ばし合った梨木ちゃんと有里君により、エレベーター内はとんでもない気まずい空間になる。
___のに。
「……エレベーターのボタンってなんか無駄に連打しちゃうよなあ〜!」
「そうですね。」
「え!穂高も連打する派!?可愛いな!」
「しないです。」
空気を気にせず話し続ける古淵は、前世はアホな村の勇者か何かなのだろうか。
それに加えて在里くんのあしらい方は、あの気怠い男に少し似ている気がする。何枚も上手だ。
「……仮にも先輩が話しかけてくださってるのに、何なのそのテンションの低さ。」
「お前もでかい声で、げ!とかやめてくれる?恥ずかしいから。」
お互い扉の方を見たまま、淡々と交わされる後輩達の会話。
古淵が「ん?仮にも???」と梨木ちゃんの失言に突っ込んでいたけど、その場にいる全員が暗黙の了解の上でスルーだった。
そして、軽快な到着の音と共に開かれたそれを降りれば、後ろではまだ梨木ちゃんと有里君は冷戦を続けている。
有里君はどちらかと言えばいつも冷静な感じで、なんだか誰かと言い合いをするだとか、容姿からはあんまり想像できない。
それなのに、やけに梨木ちゃんには突っかかる。