君と私で、恋になるまで
◽︎


「はい。」

「…ありがと。」


食べるの付き合って、と言われて一緒に食卓を囲んだけど結局、今日の古淵のアホエピソードを男が急に話始めるから、それを聞いていたら、食事は終わってしまった。


でも、通常運転のあの同期の話でよく笑えたからか、少し肩の力は抜けた。



片付けを終えて「コーヒー淹れる」と言った男の言葉に甘え、ソファに座っていると湯気をあげたマグカップを私に手渡してくれる。



「…美味しいです。」

「それはよかった。」

喉をゆっくり流れていく温かくて香ばしいそれが、心まで解していった。



「…月曜日、うちの部長と企画部の部長に、呼ばれた。」

「うん。」

脈略なく話し始めたのに、あっさりと声が返ってくる。

たったそれだけで受け止めてもらえたような気がして
安心してしまうのは、どうしてなのかな。



「企画部から、一緒に仕事をしてみないかって、言ってもらった。」


「…そう。」

正直、とても驚いた。

全くと言って良いほどに、想定をしていない話だった。


「凄く、ありがたいことだって分かってる。
自分を必要としてくれている部署が営業部の他にもあるなんて、光栄なことだって、思う。」


企画部なんて、会社の中でも人気の部署の一つだ。

現場の声や今までの案件をもとに、新商品やサービスを考えたり売上や予実から分析してマーケティングをしたり、その仕事は多岐に渡る。



入社してすぐに配属されることなんて滅多に無い。

だからこそ志望する人も多いし、そんな部署から直々にお声がけをいただいた。

きっと誰に聞いても、選択肢は、たった1つ。



__それなのに。


「……私は、即答ができなかった。」

落とした言葉が、マグカップの中から未だにふわりと上がっている湯気に、かき消されてしまいそう。

カップを握る手に力もこもる。


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