君と私で、恋になるまで
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「枡川。」
「あ、吉澤さん!お疲れ様です。」
「お疲れ。」
フロアで1番広い会議室で、予め配布されていた資料を読んでいると後ろからハキハキした無駄の無い声に名前を呼ばれた。
振り返ると、入社したばかりの頃は毎日眉間に皺を寄せて、元々吊り目がちの瞳をこれでもかと言うくらいつり上がらせていた彼女が、ふと表情を崩して立っていた。
「あんたも異動して大変なのに変に誘ってごめんね。」
「いえいえ。吉澤さんのお誘いは断りません。
断れません。…色んな意味で。」
「失礼だな。」
非難を鋭い眼差しで表す彼女に思わず笑うと、向こうもやれやれと溜息を吐きつつ、隣の椅子に腰掛ける。
「…冗談です。むしろありがとうございます。
新しい意見とか物の見方とか、取り入れられる機会はどの職種にいっても大切なので。」
「そうね、良い心がけだわ。
誰に教育してもらったの?」
「鬼のスパルタ研修で有名な吉澤先生です。」
「……何?」
「美人な採用担当の吉澤先生です。」
「よし。」
満足気に頷く様子に、また思わず笑ってしまった。
今日は、噂の1WEEKインターンの最終日で。
このインターンの応募倍率は相当だったらしく、勝ち抜いた参加者総勢25名が、グループに分かれて『オフィスリニューアルの企画立案』をコンペ形式でプレゼンまで行う、なかなかに本格的なワークだ。
1週間、各部署の担当者達も参加して、仕事内容を説明したりワークにおけるアドバイスをしながら其々でプレゼンが出来るまで仕上げてきている。
『時間あるなら最終日のプレゼン、見に来たら?』
吉澤さんが今週の初めにメールでそう知らせてくれて、行きたいと勿論思った私は、バタバタの中でもなんとか今日のための時間を作った。
先に各グループのコンペ内容を簡単にまとめられた資料を見ているだけでも、そのクオリティに驚く。
「……瀬尾も忙しいのにこの1週間、ずっと学生のために親身になってくれてたしね。あんたの同期に感謝だわ。」
「そうですか。」
あの気怠い男が、どうやってうちの会社のことを学生さんに伝えてたのかな。
それは気になるけど、こうして人から奴のことを褒められたりすると表情が勝手に緩んでしまう。
「なんか新人の頃から気怠いし、低燃費そうなんだけど、あれでちゃんと色んな案件やってんだから腹立つのよね。」
「…確かに。」
完全に同意しかなくて微笑みながらそう言うと、吉澤さんの彫りの深い綺麗な顔立ちが、じっとこちらを見ているのに気付く。