君と私で、恋になるまで
「……どうしました?」
「…あんたと瀬尾ってさ、「枡川ぁ!!」
吉澤さんが何か言いかけたのを何の遠慮も無く遮る大きな声が届いて、私も彼女もびく、と肩を震わせた。
「…古淵…声でかいよ。」
振り返るとくりっとした丸い瞳を何故かキラキラ滲ませた私の同期が、仁王立ちしていた。
「枡川、久しぶりい!!!!」
まるでそのまま抱きついてくるのではと思うくらいの勢いで近づかれて、座ったまま背中を最大限に仰け反ってしまった。
古淵とは、確かに異動してからなかなかゆっくり話をする機会が無かった。
「枡川は、営業部の大変さを一緒にずっと乗り越えてきた運命生命体なのに…!
異動したらこんなに会えないなんて…」
ぐしぐしと、あながち大袈裟でも無いような素振りで涙を拭う古淵に思わず表情がほぐれた。
この男は、いつも言葉がストレートだから、何故か向き合っていると肩から力が抜けていく感覚に襲われる。
「運命生命体ってなんだよ。運命共同体でしょ。」
長テーブルに頬杖をついて、やれやれとその通りな指摘をした吉澤さんの存在に気づいた古淵は「ヒョエ!!」と、誠に失礼な反応を示す。
「おい。私は新人研修で、先輩にそんな挨拶しろなんて教えた?」
「いえ!!お疲れ様です!!!」
「よし。」
まるで鬼トレーナーと、従順な犬のようだ。
「古淵も、吉澤さんに誘っていただいたの?」
「こんな煩い奴、私は呼ばないわよ。」
「確かに。」
「2人とも酷い!瀬尾に今日がインターン最終日だって聞いてたから、頼まれてないけど無理やり来ました!」
「…まあ見学は自由だから良いけど。学生達に引かれるくらい騒ぐのやめてね。」
「吉澤さん、俺への信用無いですね!
大海原に飛び込んだ気持ちでいてください!」
「なんだそのただの自殺行為。
枡川、この男ちゃんと営業できてんの?
配属考えたこっちも不安なるわ。」
"大船に乗った気持ち"、と言いたかったのだろうか。
ぺかぺかの笑顔で笑う古淵に、吉澤さんと一抹では無い不安を抱えていると、「失礼します!」と威勢のいい声を続々と響かせつつ、学生達が会議室に入ってきた。
「(あ…、)」
このインターンを担当している社員達もぞろぞろと入ってくるその群れの中で、私は簡単にあの気怠い男を見つけられる。