君と私で、恋になるまで



何となく、こうやってゆっくりあの男を視界に収めるのは久しぶりな気がする。


少し伸びた焦茶色の髪が、より"アンニュイ"を演出するらしく、気怠さを上手く丸め込んでしまうオーラはいつも狡いなと思う。

「(…今日メガネしてる。)」

あの男は裸眼できちんと生活できる視力を保っているので、あれはPC用だ。
黒縁のそれも難なく似合う男をなんとなくぼうっと観察していると、何か勘づいたのか、バチ、と奥二重の瞳がこちらを見向いた。


昨日、"見に行くよ"という話はメッセージを通してしていたから此処に私が居ることは知ってる筈。


私の隣では、相変わらず吉澤さんと古淵がやいやい何か言い合っている。(古淵は全く気にしてないけど)


急に視線が交わって、背筋を伸ばした私を見守った男は誰にも気付かれないようにふ、と優しく目元を緩めて、そのまま会議室の前方に用意されたインターン担当者達の席の方へと向かった。


な、なんだあの笑顔。

不意打ちでそれを一方的に受けた私は、鼓動が勝手に速まってしまった。

胸がきゅ、と鳴る感覚は、付き合う前から何も変わら無いし、あの男にだけ起こる症状で、それをどこまで見通されてるのか、本当に油断ならない。



「え、枡川なんであんたそんな顔赤いの。」

「私のことはお気になさらず。」


急に真っ赤に染まった顔を自覚して、誤魔化すように資料に視線を落とした。


インターンも落ち着く金曜日の今日は、あの男にやっと、ゆっくり会える。

そう思うと余計胸が高鳴る感覚に、「私、どれだけ好きなの」と我ながら重症具合を感じつつ、仕事に集中するために意識を無理やり切り替えた。


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