君と私で、恋になるまで
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「どうだった?」
「……想像以上でした。凄いですね。」
「でしょ?良い人材採るために、こっちも気合入ってんのよ。」
学生達のプレゼンは、始まってしまえばあっという間に時間が過ぎて行った。
新しいオフィスを提案すると仮定してのコンペ形式の発表は、コンセプトやPPTの質だけではなくて、図面や完成ラフの精巧さにも、聞きながら驚きの連続だった。
総合職志望と専門職志望の子が混ざってチームを組んでるのも、お互い良い刺激を生むらしい。
「まあ瀬尾のいるデザイン部だけじゃなくて、設計とか工務の担当からも色々アドバイス貰いながら準備してるからね。本格的に仕上がってる。」
「凄いです。」
語彙が、凄い、しか出てこない自分が悔しいくらいだ。
知識が増えれば、出来ることは増える。
そうして仕事の幅を増やしていくことばかりが成長だと、会社にいたら思ってしまいがちだけど。
「こうやって、粗削りの中に光るものを見つめられるから、私は人事の仕事を辞められないんだわ。」
口角を上げてそう言う吉澤さんの発言は、頷くしか無い。
この年代の子達の真っ直ぐな眩しさは、私にも強く印象に残った。
「採用が本格的に始まったら、桝川にもまた協力お願いするかもだけどよろしくね。」
「去年もそう言えば、説明会出ましたね。」
「今年は営業の仕事だけじゃなくて企画部のことも話せるのか。あんたのこと沢山駆り出そーっと。」
「お手柔らかに。」
満足そうに微笑んだ吉澤さんは、発表を終えて緊張が解けた様子の学生達の元へと向かった。
「なんかさあ、瀬尾ってやっぱすげーよなあ。」
「え?」
「自分の案件もめちゃくちゃあんのに、インターンにも協力して。」
「本当だね。」
「や~さすが俺の央くん。」
「…なんだって?」
瀬尾大好き人間である古淵の発言を聞き返していると「瀬尾さん!」と、学生達の若い声が沢山聞こえて、気怠そうな男は会議室の一角で取り囲まれていた。