君と私で、恋になるまで
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《ごめん飲み会入った。
適当に抜けるから先に俺の家帰ってて。》
《分かった、今日お疲れ様。
どのグループもクオリティ凄くて感動した。》
《あー、頑張ってたな。》
《家で待ってるね。》
《塩辛だけ、とかじゃなくてちゃんと食べろよ。》
《大丈夫、焼き鳥も食べます。》
《炭水化物を摂れって話をしてんだけど。》
なんてことない会話も、相手がこの男だと安心感に満たされる。
スマホのトーク画面を見つめつつ、多少の残業を前に何か飲み物を調達しようと1階のエレベーターホールに辿り着くと、前方に黒い集団を確認した。
リクルートスーツに身を包んだ彼らは、この1週間で仲を深めたのがよく分かるくらいに、煩くはならないボリュームで会話をしつつエントランスへ向かっている。
どうやらインターンも無事に終了したらしい。
「(お疲れ様でした。)」
心でそう唱えつつ、その集団を追い越そうとした時だった。
「嬉しい〜〜頑張って連絡しよ…!」
「良かったね。」
「瀬尾さん本当に格好良い…」
「わかる。」
可愛らしい女の子達の会話に、思わず足が止まりそうになって、なんとか鞭を打って動かす。
胸のざわめきは、いとも容易く生まれてしまう。
私に気づいた数人が快活な声で挨拶をしてくれて、それに笑顔で返しつつ、その場をくぐり抜けることに注力しながら。
"頑張って連絡しよ…!"
会話が頭で再び繰り返されると、また直ぐに暗くて取り除くのが困難なシミが心に落とされた気がして、振り切るように近くのカフェを目指した。