君と私で、恋になるまで
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パキッとした真新しいスーツ姿が視界を占領する。
きっとこれを機に新調した奴がたくさんいるのだろう。
「(……だるい。)」
そんな中、全くそぐわない感想を俺は心で呟いた。
4月1日。
いわゆる新社会人の門出。
俺が就職した、業界ではシェアが1.2番を争うオフィス家具メーカーでも、入社式が執り行われていた。
大きな貸し会場で、整列されて並ぶ椅子に座っている、よくテレビなんかで見かける光景が眼前に広がる。
大学院まで空間デザインの勉強をしてきた俺は、専門職としてこの会社に入った。
やってきた勉強を活かせることは勿論楽しみではあるけど、こういう格式ばった式典はどうも苦手だ。
有難いはずの会長や社長の講話もどこかぼんやりと聞こえて耳から抜けていってしまいそうになる俺に
フレッシュさと言うものは恐らく無い。
仕方ない。
もともとこういう性格だし、熱を入れて何かする、みたいなことは苦手な部類だ。
あくびを噛み殺して、視線を自分の左斜め前に移すと、頭がかくかくと、それはそれは愉快に揺れている古淵が目に入った。
古淵とは、この会社の最終面接の控え室で一緒になった。
面接直前のピリついた空気の中、
「え、自分、すげえイケメンですね!?」
と、でかい声で話しかけてきた。
これが最終に残ってるこの会社やばいのかなとさえ思った程だが、適当に相槌を打つ俺に構うことなく楽しそうに話し続けるこいつの隣は、何だか楽だった。
…そして、本当にまさかの同期になった時は驚いたが。
そんな古淵は今まさに睡魔と戦っているらしい。
というかもう負けてしかない。
俺はゆらゆらと揺れ続ける古淵の後ろ姿に少しだけ口角が上がった。
お前ほんと、大物になるよ。ある意味。