君と私で、恋になるまで
「ん、お疲れ。」
平然を装ってそう言って、再び自販機に視線を戻す。
すると何を思ったか、枡川は隣に立ってきた。
予想していなかったその行動に、動揺を悟られないようにガコン、と音を立てて出てきたコーヒーを取り出した。
「ブラックかあ。瀬尾みがあるね。」
「…何それ。」
意味の分からない感想に思わずふと笑ってしまった。
まずい、俺、こいつの何気ないこう言う会話に絆されそうになる。
「ここで甘いミルクティーとか飲んでたら、それはそれでギャップ〜ってなるんだろうね。なんなの?」
「甘いのあんまり好きじゃないし、何でちょっと怒ってんの。」
「そうなのか、やっぱり瀬尾みがあるわ。私もコーヒー買お。」
だから“瀬尾み“って何なんだよ。
突っ込みたくなったけど、もう離れた方がいい、そう思って俺は部屋へ戻ろうとする。
なのに。
「…げ!!無くなった!!」
可愛げも何も無い声が急に響く。
やめてくれ、俺、お前とあんまり関わりたく無いんだけど。
でも流石にこれは声をかけざるを得ない。
するとくるり勢いよく振り返った枡川は、ジト、と俺のコーヒーを見つめた。
その拍子に、彼女の艶やかな髪がふわりと揺れる。