君と私で、恋になるまで
施設に戻って、ロビーを見渡すと閑散としていた。
自室に戻ったのだろうか、そう思いながらふと、ロビー奥の窓で仕切られたデッキに目線を向けると、1人誰にも見つからないように、うずくまって座る人影が見えた。
小さくて、頼りなくて、やっぱり俺は考えるより先に足が進んで、その窓に手をかけていた。
「____枡川って星みて泣くとか、そんなタイプだったの。」
思わずそうくだらない言葉をかけた俺の声に、びく、とその細い肩を震わせて振り返った枡川の瞳は、大粒の涙で濡れていた。
それを見た瞬間、何だかたまらない気持ちになって、俺、こいつの隣にいたい、そう思った自分に、もう戸惑うことは無かった。
だって、最初からもう気になっていた。
彼氏がいるって知って、何とか距離を置きたかったのは育っていく気持ちが怖かったからだ。
「……別に星観て泣いてるんじゃないんですよ。」
枡川は、そう口を尖らせて俺のくだらない質問に律儀に答えながら、もうバレバレなのに手で乱暴に涙を拭おうとする。
彼女に手を伸ばしたい衝動に気がついて、隣で気付かれないように深く呼吸をした。
「あ、そうなんだ。枡川ってロマンチストなのかと思ったわ。」
「…綺麗な星で感動して流す涙にしてはあまりに垂れ流しだと思わない?」
観てこの顔、そう言いながら自分の顔を指差す彼女に面食らってしまった。
自分で言うのかよ。
こいつを励ましたくて来たはずなのに、俺の方が先に笑ってしまった。
でも、枡川は多分そういう奴だ。
自分の負の感情を見せようとしない、心配をかけないように、周りに明るく振る舞うのが本人ももう無自覚なのか、癖になってる気がする。
良いのに、そんな頑張らなくて。
__俺の前では。