君と私で、恋になるまで
俺は1つ、ハイボールを片手に自然とため息を吐く。
「瀬尾、大丈夫?」
「ん?ああごめん、違う。
枡川の食いっぷりに呆れてただけ。」
「なんかごめんね?食べるけどね?」
こいつは酒が進むと、途端に顔が赤くなる。
お酒が弱いわけでは無いが、その表情があまりに可愛くて困る。
「…お前、好きな食べ物変わんないな。」
この店ではクリームチーズの味噌漬けがお気に入りのようだが、梅水晶に、たこわさに、塩辛。
出会ったあの日の飲み会と同じラインナップに笑ってしまう。
こいつはきっと覚えて無いんだろうけど。
「…梅水晶は、私食べたことなかったんだよ。」
「は?」
「瀬尾が、入社式の後の飲み会で注文してくれたんじゃん。」
「…え。」
そう言って、持っていた梅水晶を指差して笑う。
「適当に注文する、って言って来た料理見てびっくりした。
この人、私が好きそうなものばっかり注文してくるけど何なの!?って思ったよ。」
「……ふーん。」
枝豆にビールとか言うから、俺がいつも頼むようなおっさんメニューを頼んだだけだけど。
やばい、にやける。
「それから梅水晶は私のお気に入りだね。」
「枡川さん、食べ物の記憶力流石にすごいね。」
照れているのを悟られたくなくて、俺は皿に取り分けてあっただし巻き卵を箸で掴みながらそう言う。
「…褒めてると信じてありがとう?
でもちゃんと、他も覚えてるよ。」
だけどその言葉に、思わず目の前の彼女と視線を合わせてしまった。
「何を?」
「初対面だったけど、この人、すごい心地いい会話してくるなあって思った。」
ふわり頬が赤い彼女があまりに可愛く笑うからこっちも釣られて赤くなってしまいそうだった。
もう、何なのこの女。
あの日俺と同じこと考えてたとか、今になって言ってくるこいつがムカついて愛しくて、どうしようもない。
俺はもう、その笑顔も、この心地いい会話も、手離せないし、一人占めしていたい。
もはやそういう法律は無いのかなんて、馬鹿みたいな考えが浮かぶ俺はまだまだ臆病だ。
こいつが好きって、あとどのくらいしたら口に出せるのか、途方も無いんだけど?
episode04.
「笑顔独占法」
fin.
初対面の時の会話の心地よさを、あまりにストレートに伝えてしまった私は、お酒のせいじゃなくて顔の温度が上がる。
それなのに、優しくこちらを見つめて、ふーん、なんて相槌してくるそのゆるりとした笑顔に簡単に囚われてしまった。
この笑顔、私だけが見ていたい。
そう思うのに、でもそれを独占できるような方法を私はまだ持ちあわせてない。気が遠過ぎてクラクラしそうだし、目の前の男の笑顔に心臓は煩いし、むかつく。