君と私で、恋になるまで



「弊社ではリニューアルの完成はまだ先ですが、先行してオフィス運営委員会というのを発足する予定です。

そのチームで話し合って先ほど申し上げたようなオフィスに関する情報、活用法を発信してしていければと思っています。

そこで、こうしてリニューアルを請け負っていただいている枡川さんに、折り入ってお願いがあるんです。」


「…は、はい?なんでしょうか。」


「御社のデザイナーの瀬尾さんに、この委員会のアドバイザーとしてお力添えいただけないでしょうか?」


「……え?」

間抜けな顔でそう返事してしまった私。

こうして、冒頭の会話に戻るわけである。




「勿論、お忙しい中でわざわざ時間を割いていただくのは申し訳ないので、全体ミーティング後など来社いただいた後にお時間を戴ければと。

コンペの時点で御社が出された完成イメージのデザイン性には上層部も感激しておりました。
ぜひ瀬尾さんに入っていただきたいなと思っています。」


変わらない笑みのままそう告げられて、私は言葉が上手く出なかった。

確かに瀬尾は、あの気怠げな様相からは「いつそんなに調査してるの?」と思ってしまうくらいに、それぞれの会社の要望を理解し尽くした上で温かみのあるデザインを仕上げてくる。


そのセンスはうちの会社でも勿論認められているし、こうして先方から指名されるなんて、とても凄いことだと分かる。

…分かるのだけど。

どうして私は、不透明なモヤが心を覆うんだろう。


「…瀬尾に、伝えておきますね。」

なんとかそんな気持ちを振り切って伝えたけれど,そのモヤは簡単に晴れてくれそうにはなかった。


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