君と私で、恋になるまで
その表情はこちらを窺って、不安気に揺れていた。
「…い、いないと思います…」
「そうなんですか。」
「……」
「……」
かつてこんなに辛い沈黙があっただろうか。
息が詰まり過ぎて、この箱の中で窒息死しそうだ。
ゴクリ、唾を飲み込んで喉を気休めに潤した瞬間、チン、と軽快な音が鳴り響く。
た、助かった…!!
ボタンを押して私が出るのを促してくれる彼女に一礼して足早に外へ出る。
「…ま、枡川さん!!」
「はい!?」
先ほどの弱々しい声とは違って、エレベーターを出た私の背中に届いたのはボリュームの大きい呼びかけだった。
振り返って向かい合った彼女は、何か意を決したような顔で私をまっすぐ見る。
「急に、変なことお聞きしてすみませんでした。」
「あ、いえ、大丈夫ですよ。」
「…あの、もうお気づきだと思うんですが。
__私、瀬尾さんが好きなんです。」
「、」
直球で投げ込まれた彼女のあの男への気持ちは、あまりに私の心を鋭く貫く。