君と私で、恋になるまで
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「……敵もなかなかやりよるわね。」
「敵て。」
「いやー、ちょっと良いねでも。
陰湿でも無く、ド直球でちひろのこと認めた上でだから私は頑張るって言ってくる感じ。嫌いでは無い。」
「…本当、そうだよね。」
それ以前に、彼女は私を買い被りすぎているとは思うけれど、でも"だから頑張る"と真っ直ぐ言い切るあの素直さは、輝いて見えた。
いつものように亜子と、老舗のうどん屋さんへ外ランチに出た私は、昨日の事の顛末を話し終える。
運ばれてきた湯気をあげるきつねうどんは凄く美味しそうだけど、私はふわふわ泳ぐお揚げを見ながらつい溜息を溢す。
「あ、でも安心して。私は些細なことで照れられる天然記念物のちひろちゃん推しだから。」
「はあ、ありがとうございます。」
「聞けよ。」
私の返答に不服そうな声で言いながら、亜子はパキッと箸を容易く割る。
そのまま、ねえ、と私を呼んだ。
「ちひろ、良いの?」
「…え?」
「その、保城さんだけじゃ無くて。
私にはまったく理解できないけどあいつのこと見てる女なんて山ほどいるでしょ。」
まじ意味わからんけど、そう言って亜子は玉子うどんを啜った。
「…そうだね。」
十分に分かっている。社内でもあの気怠い男を追う女子は多い。
だからこそ、保城さんに昨日告げられた言葉は私の中でずっと重い鉛のようにずしりと残って離れずにいる。
「もーー本当、ヘタレの恋愛めんどくさ。」
「……返す言葉が無いです。」
「(…ヘタレ“同士“、だけどね。)」
本当、臆病で、ヘタレで。
だけどあの男が好きでたまらない、自分が嫌になる。