君と私で、恋になるまで
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「…あっっっつ。」

「……瀬尾さん、早く歩いてくれません?」

「あのさあ、この暑い日になんで歩いて行くわけ?」


ジャケットを雑に左手で持ち、シャツの袖をまくりながらそう不機嫌に聞いてくる男に私は嘆息する。



「タクシー使いたいんですけど、どうですか枡川さん。」

「そんなの経費として落ちるわけないでしょ?経理に怒られるわ。
営業は足を使うのが基本なの!」

「なに?営業の鏡じゃん馬鹿。」

「文末で台無しだよ。」


くだらないやりとりをする私達に容赦なく照りつける太陽は、じんわりと隈なく身体に汗を滲ませる。

首元をす、と滑り落ちたそれを拭いながら、私の後ろで歩くスピードを全く速めようとはしない男。


“アドバイザーをやって欲しいそうです。“


保城さんからの依頼をまずはプロジェクトにも関わってくれている部長に伝えたが、その後、デザイン部の上長から瀬尾の耳にも届いたようだ。


二つ返事で快諾した、と聞いて色々案件を抱えているくせにこの男のキャパはどうなっているのかと思う。


そして少しだけ、胸がちくりと痛んだのは気のせいでは無い。

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