君と私で、恋になるまで




すいません、と香月さん達に断りを入れて喧騒から離れて画面を見ると

"古淵 洋介"

と、同期の名前が表示されていた。嫌な予感しかしない。


「……もしもし。」

" …ま"、ま"ずがわ"。"

声からして、彼の絶望が伝わる。
というか全部濁音でほぼ聞こえない。



「…どうしたの。」

"パソコン、クラッシュした。"

「!?」


"ちゃんと電源またついたからまだマシだけど、明日の営業報告会で使う資料飛んだ。"


「自動保存されてないの!?」

"あれ動作重くなるから、最近その機能切って使ってたんだよーー"

「今時、それで重くなるパソコンダメだよ。

今度リースの更新申請しよう私も行くから。」


"神じゃん。"


大きく溜息を吐いて、チラリ腕時計を見やる。

直帰して飲みに来たから、時間はまだ18時半だ。


私と古淵は、課は違うけど同じ営業の仕事をしている。月1でそれぞれ営業先の進捗を報告する大きな会議をするのだけど、その資料が前日に飛んだのは非常にまずい。


"今日に限って先輩達、出張だの現場だので連絡つかないしさあ。"

「…案件被ってないからそこまで役に立たないとは思うけど、手伝うよ。私のパワポも見せるね。」


"神じゃん…、恩に着せるよ。"

「え、私が着せられるの?」


古淵は本当に、この日本語力でいつも営業は大丈夫なのだろうか。


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