君と私で、恋になるまで




「…え!じゃあ今からオフィス戻られるんですか?」

電話を終えてテーブルに戻った私は急いで自分のバッグを手に取る。


「折角の機会なのに本当にすみません。
でもちょっと、トラブルで急を要していて…」

あのまま見捨てたら古淵は、干からびて死んでしまいそうだ。


「いえいえお疲れ様です。
こちらは気にしないで下さい。急遽の飲み会ですし。」


観音様のような優しさを添えてそう言って下さる香月さんに再度謝る。



すぐ近くの先輩にお会計や領収書のことを相談し終えてふと顔を上げると、瀬尾と目が合った。

どうした?と形の良い瞳で私に問うのは伝わったが、あまり上手とは言えない笑みを返すことしか出来なかった。





そのまま挨拶を終えた私は、ビアガーデンの入り口近くのエレベーターを目指して小走りで向かっていたが、左側のトイレから保城さんが出てくるのが見えた。

そう言えば先程、瀬尾の隣に彼女は居なかった。




立ち止まった足に勇気を込めて、方向を変える。


「____保城さん。」

「…あれ、枡川さん?どうされたんですか?」


急に名前を呼ばれたことと、更に私が帰り支度を済ませた装いで現れたことに大きな瞳を丸くさせていた。


持っている小さなポーチもハンカチも、全て女性らしい可憐さをきちんと兼ね揃えている。

彼女は、好きな人のために、細かいところまで気を遣って、努力をしている。

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