君と私で、恋になるまで


◻︎


「よし、とりあえずこれでなんとかなる?」

「……まじで、神は此処にいらっしゃった。」


会社に戻ってから数時間。

古淵が今抱えてる案件の資料を見直しながら爆速で作り上げたパワポと補足資料はなんとか形になった。


私は補足資料の方の各案件のデータまとめに専念したけど、使用するフォーマット自体は似たり寄ったりにしても、当然中身が全く異なるので(特に私と古淵は営業先の分野も違う)思いの外、時間はかかってしまった。


オフィスは既にほんの数人、営業以外の島の人が離れた場所で仕事をしているだけの静かな空間だった。
 


「良かった。資料はまだ箇条書きに近いから、ちゃんと文字起こして明日朝一で上長に確認もらって。」


「ま、枡川…!!」


オフィスに戻った時の彼は、魂が本当に出張していたけれど漸く帰ってきたようだ。
「ぴえん」の絵文字を擬人化したような瞳をしている古淵に思わず笑った。



「後は俺が責任もってやります…ごめんなこんな時間まで…しかも今日、直帰予定だったよな。」

「良いよ。」

「今度奢ります。」

「ありがとうございます。」


片付けをしながら、そう軽く返答していると、

「あれ?枡川、今日瀬尾となんか約束してた?」


そう古淵に尋ねられて、急に出た奴の名前に胸が鳴る。


「え…、なんで?」

「残業つらいって瀬尾にメッセージ送ってたんだよ。

そしたらその返事が、"枡川もオフィスにいる?"だったから。俺のことは完全に無視なんだけど酷くない?」


心配を、かけてしまったかな。

私は曖昧に微笑んで「してないよ。」と告げる。



そして、「まじでこの恩、孫の代まで伝えていく。」というよく分からないセリフで私を見送る古淵を置いてオフィスを後にした。

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