極悪聖女
「……」
「勇者様の傍には美しい宝石、可憐な花がいるべきだって、それはあんたなんでしょイルヴァ。その輝きで国を救えばいいのよ」
汚れた頬に涙が伝い、顎からポタリと落ちた。
傷は治せても、汚れは拭えない。
「申し訳……ありませんでした」
「私ではなく、民に謝りなさい。勇者を誑かして腰抜けにしたせいで滅びた村の人たちは、忘れないわ。ふしだらで未熟な聖女イルヴァの御伽噺をね」
突き飛ばすと、イルヴァは簡単に倒れた。
「どうしてもと言うなら陛下の書状を持ってきなさい。決めるのはいつも、あの方よ。私たち聖女じゃなくて」
私を蹴落としたその根性で、イルヴァは走り去った。
「……」
風が呻る。
住処を守る結界の外では、獣が縄張りを守っている。
そのあとは魔物の群だ。
元気な体で、もう一度傷を負えばいい。
アバンを連れてくる?
書状を持ってこれる?
それとも逃げる?
心の傷は癒えないと言うけれど体の傷も痛いでしょ、イルヴァ。