極悪聖女
6 愛の燃え滓

いちばん忘れたい人が来た。


「すまなかった、フレヤ。俺はどうかしていたんだ」

「今もどうかしているわ」


フィリップ王子が遥々、森の奥深くまで、自分の足でやってくるなんて。
私は腕組みをして、驚いていた。憾みが薄れるほど、驚いていた。


「砦が落とされたそうですわね。大変な被害という話ですけれど、こんなところで油を売って、どういうおつもりなんですか」


大地に跪くかつての恋人を見おろして、唖然とする。
でもまじまじと見つめている間に、私は気づいた。フィリップ王子は無傷だ。髪は乱れているけれど、傷ひとつ負っていない。護衛を戦地に回せば救える命もあるだろうに。

 
「おお、未だ愛国心を忘れずにいてくれたか。さすがは俺の愛した女」


曲解されて、我に返る。


「消えて」

「待ってくれ! 俺が間違っていた。愛しているのはお前だけだ、フレヤ!」


聞いて呆れる。
私は家に向きかけた足を止め、思わず振り返った。
どんな顔で言っているのだろう。その取るに足らない疑問なんて無視すればよかった。フィリップ王子は大袈裟な手ぶりで捲くし立てた。


「俺に相応しいのは賢い聖女だ! 国を愛し、国に尽くし、身を捧げる女!」
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