極悪聖女
「愛してたんだわ……ッ、あの人が、う、裏切るなんて、思ってなかったし……っ、立派な次期国王だって……ッ、誇りにッ、おもッ、え、えぐっ」
「若者は時に道を踏み外すものだ。王子は、大事なものを失った。いいかい、フレヤ。お前さんが泣かなくていいんだよ。悪いのも、可哀相なのも、その男のほうなんだから」
「うああぁぁぁっ」
あれやこれやと言葉を変えて、お爺さんは辛抱強く私を慰めてくれる。
「だって、わだッ、私……婚約してたのよ……っ?」
「当然だ。フレヤは素敵な女性だから、きちんと相手が決まっているのが正しい事なんだよ」
「棄てられたわ……ッ!」
「形の上ではそうかもしれないが、王子には、フレヤの素晴らしさがわからなかったんだ。相応しくないのはフレヤじゃなく、王子のほうだったんだよ」
「お爺さん……ッ」
おいおいと泣いて、泣いて、泣いて。
思う存分吐き出したら、涙は自然と収まってくる。