極悪聖女
10 お爺さんと私
「あ、カイスだ」
「そう! 素敵な名前ね!」
お爺さんがやっと自分の名前を言ってくれた。
それが、話題を思い出したのか、忘れていた自分の名前を思い出したのかはわからない。ただ大事なのはそこじゃないので、深く追求はしない。
「そうかい。ありがとう」
「ええ、本当にそう思う。ねえ、初めからやり直しましょう」
「おん?」
無邪気に聞き返してくる言葉がもう曖昧。
「だからね、自己紹介からやり直すの」
「どうして」
「だって私、その、あまり行儀がよくなかったし」
「まだそんな事を言っているのかい、フレヤ。可愛い思い出だ。やり直す必要なんてないんだよ」
「……そう」
ご機嫌なお爺さんを見ていると、それ以上は我を通す気がなくなった。
生い先短いお爺さんの思い出に手を出したくない。
「……」
やだ。
悲しい事を考えちゃった。