極悪聖女
13 誰も知らない物語
「いいのかい?」
戸惑いがちな低い声が、ずっと若い。でも、お爺さんの声だ。
「お願い。もし嫌なら、元に戻すから……ずっと一緒にいて。お願いよ」
「ああ、フレヤ……!」
震える腕が私を抱きしめてくれた。
あたたかなカイスのぬくもりに、強張った心が完全に溶けていく。
もう私は聖女じゃない。
私は、愛する人だけを見つめて、歩いていきたい。
「大事な話があるよ、フレヤ」
「?」
腕を解いて、カイスが私の目を覗き込んだ。
「もしこの先いい人が現れたら、躊躇わずにその男と幸せになりなさい」
「私が嫌いなの?」
「いいや、大好きだよ。だから、せっかく始まったフレヤの新しい人生を邪魔したくない。こっちは片想いで、そっちは勘違いって可能性もあるだろう」
「いじわる言わないで!」
甘えさせてくれるとわかっていて、私はまたカイスにしがみついた。