幼なじみたち(※全員美形)に婚カツを邪魔されるので困っています
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……また、やってしまった。
爽やかな朝陽が当たる清潔なシーツの上で一人頭を抱える。
(あの三人に触られると頭わけわかんなくなっちゃうから、だから他の誰かと結婚しなきゃいけないのに……っ)
ちらりと時計を確認すると午前6時50分。私が気絶したのが明け方だから、まだ数時間しか眠れていない。
(だけど今からダッシュで帰って準備すれば遅刻せずに出勤できる!)
幸い、パジャマは着せられていて、鷹ちゃんも詩音も司くんも今この部屋にいない。
(もう、荷物とかは後でどうにかして、恥ずかしいけどこの格好でタクシーつかまえて……)
「なっちゃん? そんな薄着で廊下にいたら風邪ひくよ?」
「ひっ?!」
ベッドルームから3歩踏み出したところでリビングから出てきた司くんに声をかけられた。
(なんでこの広い家で私の動きを察知できるの忍者なの?!)
「お腹空いちゃった? 今、詩音兄さんが朝ごはん作ってるから待っててね」
優しく、だけど他に行くことを許さない手を腰に添えられて三人のいるリビングへエスコートされる。
ガラス戸を開けると淹れたてのコーヒーの香りが私を包んだ。
「おはよう、なつみちゃん。もう少し寝た方が良いかと思って起こさなかったけど早起きだね。俺が淹れたコーヒー飲む?」
「……飲む。鷹ちゃんのコーヒー好き」
「それは光栄だ」
広い鷹ちゃんのマンションの広いリビングで一番座り心地の良いソファに司くんが連れていってくれる。
「あ? ナツもう起きたのか。今お前の好きなカリカリベーコンのサラダ作ってやるから待ってろ」
「ありがと……」
あぁ。こうやってこの三人はいつも私を甘やかす。
三人の中で一番を選べない私を責めることもしない。
このままじゃ、私は三人がくれるだけの愛情を少しも返せない。
だから。だから私はこの生活から抜け出さなきゃいけないの。
「──鷹ちゃん、詩音、司くん。私、やっぱり……」
「なつみちゃん。俺達あの後相談したんだけどね」
コーヒーを置いた鷹ちゃんが私を遮るように口を開く。
「相談?」
「そう。なつみちゃんが今の生活を怖がるのは、やっぱり誰とも結婚してないからじゃないかな。って」
「それはそうかもしれないけど……」
「だけど、なっちゃんは僕達の中で一番を決められない」
「……うん」
司くんの言葉が刺さってキュっと膝の上で拳を握りしめた。
「司。その言い方じゃナツが不安になるだろ」
調理の手を止めてドカリと詩音が司くんの隣に座る。
「あぁごめんねなっちゃん。そういう意味じゃ無いんだ。なっちゃんが自分で決められないなら……」
「俺と詩音と司の三人で決めようって話になったんだよ」
………………。
「……ハイ?」
「あみだに、クジに、ルーレット」
「ダーツって案もあったな」
「乗馬対決もね」
「…………え?」
「だけどせっかくなっちゃんの結婚相手を決めるんだから」
「もっと派手にやらなきゃ面白くない。だから」
「今からラスベガスに行って、カジノで一番最初に1億稼いだ奴がなつみちゃんの夫だってことになったんだ」
「……なっちゃったの?」
「「「うん」」」
私の意思は?
「飯食ったら出発な!」
そう言って再び詩音はキッチンスペースへ向かった。
「はい、なっちゃんはミルクとお砂糖たっぷりだよね」
私好みにコーヒーを甘くしてくれたのは司くん。
「うちのヘリポートから自家用機で行くからずっと寝てて大丈夫だよ」
長い足を組んで鷹ちゃんがにこやかに告げる。
「あの、でも」
「着替えとかは向こうで全部買ってあげるから心配しないで」
「私、今日、仕事」
「お前の病院の院長は親父の知り合いだから融通利くだろ」
「いや、その」
「なつみちゃん? 早く飲まないとコーヒー冷めちゃうよ?」
この後、誰が一番に1億円稼ぐかは、神のみぞ知る。
fin