卒業後もまた君と


1歩近づいた彼が春の風に揺れる私の長い黒髪を触る。
彼の衣服の柔軟剤の香りと、軽くセットしているであろう髪のスタイリング剤のいい匂いがふわっと香って、あぁ、夢じゃないのかと、ぼんやり思う。


「ふっ……いつまで固まってんの。聞こえてる?」


何も言わない私を見て、いつもの無邪気な笑顔で楽しそうに問いかける。
そして、私の髪の根元の方までごつごつとした男の子らしい指を入れこんだ。


「なぁ、そんなに固まって無防備なら……こういうことされるって、知ってるか?」


ちゅっ、と。唐突に。
唇が掠めるという表現が正しい、しかし確実にキスと呼ぶものを私のおでこへと落とした。

ピシリ。と、余計に固まってしまうと、目の前の男はいたずらが成功した子供のように笑う。

……さては人の反応を見て弄んでる?
キスなんて日常茶飯事ってこと?
むぅっ……。


「あのねぇ……私まだ好きって言ってないのに、なんでこんなこ──んっ」


人の気持ちも確かめずに一方的におでこにキスなんてして!
馬鹿にするな!

そう怒るつもりが……

今度は唇に柔らかなものが落とされた。



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