Dying music〜音楽を染め上げろ〜

第三音

難渋

「またダメだ。」



ヘッドホンをベッドに投げると床に寝そべった。


「なんでできないんだ。」



ここ最近、どうにも調子が悪い。体調じゃなくて精神的にっていうか。




夏合宿が終わった辺りから、ギターが思うように弾けなくなった。指が絡まる、パワーコードが上手く抑えられない、全体的にミスる回数が増えた。


ミスすることが悪いということではない。そこから改善して次に活かしたり、もっと頑張ろうと思えるのならまだいい。でも今はそんなこと考えられない。


そのことも関係したのか、Cyanとして歌うときも失敗することが増えた。感情移入が上手くできなくなった。こういう気持ちで歌いたいっていうイメージはあるのに表現できない。この前のステージなんか、歌っている最中に歌詞をド忘れして大パニックになった。





最初はただ疲れているだけだと思ったのに、全然立て直せない。これじゃあ夏合宿をした意味がない。




「前まできていただろ…。」





これは間違いなくスランプだ。こんなこと前にもあったな。どうやって乗り切ったっけ。



...あ









「……勉強。」





2学期始まってすぐ中間考査がある。古典、現文、数I、数A、…10教科。あぁ、思い出したくなかった。


勉強、文化祭の練習、ギターソロと、テスト明けにはCyanとして2件。それから今月は動画1本上げるからその準備。




頭おかしくなりそう。





…今日は寝よう。明目も一件ステージあるんだ。























一『…どういうことですか？』









一『今回のステージは無しだ。』



朝にかかってきた師匠からの話。それは、今日のギターソロステージの出番取り消しの内容だった。



ー『最近のお前の音聞いてりゃ分かる。不調どころじゃねぇ、絶不調だ。』

ー『今回はしっかりできます。だから、』

一『だめだ。今回ステージに立っても、余計に自分へのプレッシャーになる。体調面や精神面、よくケアしてからだ。』





返す言葉が思い浮かばなかった。だってその通りだから。


今、完全なるスランプ状態。


自分も満足できないのに、お客さんを盛り上げるような演奏ができるはずがない。テンション下げたら、見に来てくれている人たちに申し訳がない。



一『…わかりました。』

一『勘違いするな、お前は下手じゃない。今調子が悪いだけだ。待ってるから安心して休め。』


俺の落ち込んだ声を聞いた師匠がそう言葉をかけてくれた。


一『はい。』





　　　　　









クッソ…‼︎





テスト前、最後のステージが無しになった。


あのまま立ってる、いいステージになるとは思わないけど、それでも、出番がなくなったのは悔しい。


ステージに立てるレベルじゃない、そういう風にしたのは自分自身だ。恨むなら自分を恨め。


ちゃんと、立て直さないと。




テスト、練習、歌い手活動、ギターサポート、全部ちゃんとやらないと。




俺の取柄は、音楽しかないんだから。