Dying music〜音楽を染め上げろ〜
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「夏樹そこ違くね?」


合わせていた途中で指摘をされた。




「ごめん。」



ふぅーっと深く息を吐く。




また間違えた。同じところだけじゃない、全体的に音がみんなとズレている。自分で焦っちゃって、みんなの音を捨えない。指が動かない。







「夏樹どうした?最近、調子悪くね?」

「…悪くないよ。大丈夫。」




平然を装って軽めに返事をする。でも落ち着かない。



手が、震える。



カッティングも、ミュートも、ビブラートも全部だめ。もう曲全体を完成させないといけない時期なのに。無性にイライラする。









「やっぱり一回休もうぜ?この間からずっと
…」

「だから大丈夫だってっ!!!!」





つい声を荒げた。


気づかれたくない、迷惑をかけたくない。


今から調整しても意味ないじゃん。あと3週間切ってるんだよ?部活の時間は限られているし、 たくさん合わせたほうがいいだろ。


できない自分が悪いんだ。家で足りない部分を補えば大丈夫。イラつきを顔に出すな。雰囲気を乱すな。


ギターの構えに入ろうとしたときだった。












「ダッサ(笑)」











恭弥がそう笑った。






「イラついているからって雑になりすぎじゃない?もうちょっとコントロールしたら?」



本人はギターをいじりながら付け加える。






「は……?」


「俺は思ったことを言っただけだけど?耳大丈夫?」





「…今話しかけんな。」




イライラしてるのは自分でもよく分かる。自身のスランプ、Cyanとしての悩み、こいつらに当たっていいってわけじゃない、そんなことぐらい分かっている。




「いじけてんの?イラつくとすぐ自分の殻に籠るよねー。」




恭弥が煽ってきたり、からかってきたりすることはいつものことだ。でも今日の言葉には「いつもの」感じがしない。トゲのある言葉に腹が立つ。





「今日はいつにも増してよく喋るな。お前だって足引っ張ってばっかりなによく人のこと言えるよ。」




思ったことを口に出した。




「何だよ…」



そういうと恭弥はギターを雑に置いて、近づいてくる。






「2人とも落ち着け。言い合う場面じゃね
ぇよ?」

「怜斗の言うとおりだ。文化祭まで残り1か月切ってんだぞ。」




いつもの口喧嘩じゃないと気づいた2人がガチトーンで止めに入ってきた。その場の雰囲気が重くなる。




「今はこいつと話してんの。」



すぐに目線を戻して、俺を見下ろす。



「で、何?俺が足引っ張ってるって?そのまま返すよ。そっちだってサビ毎回暴走するじゃん。俺が合わせようって言ってんのに。もうちょっと速度考えろよ?あ、それともあれか。暴走演奏したいとか?(笑)」





暴走…?




「そっちだってもっと緩急つけて弾けよ。全然変わらないじゃん。そのくせ人にいちゃもんつけてきて。」





そもそもラストところまだちゃんと成功したことない。もっと呼吸を合わせないといけないのに、恭弥の目指している完成形が分からない。なのに合わせろって、無理難題だろうが。



どんどん口論がヒートアップしていく。




「なぁ落ち着けって!」




涼が声を荒げるも俺らの耳には入らない。


無視して言い合いが続く。




ギタ一のことだけじゃない、性格、練習、相手の悪い所ばかりを言い合うばかり。



















「じゃあ何でやらないの⁈思ってんならやればいいいだろ⁈手ぇ抜くなよ!」






ついに怒りが沸点に達し、そう言った。









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