Dying music〜音楽を染め上げろ〜
夏樹が入部して少し経った頃、聞き覚えのある曲を耳にした。
「ハードロックとか聞くんだ。」
「うん。なんならハードロックが一番好きだよ。」
「じゃあ、ルーレットってバンド知ってる?」
「知ってる。『MISSYOU』でしょ。」
びっくりした。今まで曲のジャンルがこれほどまで合う人に会ったのは初めてだ。ルー
てマイナーなバンドなのに。
「今それ弾ける?」
「弾けるけど。」
「弾いて。」
聞きたかった。夏樹のギター単体であの曲がどう奏でられるのか。
「え、なん」
「いいから弾いて。」
俺のリクエストに夏樹は弾き出した。
🎵〜♫♩🎶〜…♩ーーー
そう、このギターサウンド。
全身に鳥肌が立つみたいな音。
悔しい、腹立たしい。でもそれ以上に。
すげぇいい音。
合わせてみたい。どうなるんだろう、どんな感じになるかな。途中から夏樹の演奏に加わった。
「えっ、」
「いい、そのまま弾け。」
夏樹の演奏に合わせて自分の音を重ねた。レスポールの音と夏樹のストラトが絶妙に合わさる。俺が弾く部分に合わせて時々アレンジをその場で組み込んできた。ああ、やっぱり上手いんだな。
「急に悪かった。」
弾き終わったあとそう言った。自分でも変なことした。急に弾けっていって急にセッションし始めて、どうかしてる。その場から離れようとしたとき、
「上手いね。」
夏樹にそう言われた。
「この曲の B メロ完璧に韓ける人初めて見た。」
「…俺もこの間できるようになったばかり。別にすごくも何もないだろ。」
「ルーレットの3rdアルバム持ってる?」
「持ってない。」
「次、それ貸すよ。その中に『light』って曲あるから聞いてみて。多分好きだと思う。」
元々俺は誰かと競ったり争うことに興味がなかった人間だ。
でも夏樹に出会ってから「負けたくない」と思うようになった。練習量も増やして苦手なアレンジも入れるようにした。
俺は涼や怜斗みたく、真っ向から話すことはできない。だからこの距離感が丁度いいんだ。