Dying music〜音楽を染め上げろ〜
「…くっそ、できない。」
イライラする。
コックピットで2番サビの音取りは俺。複雑なコード変換を素早くしなければならない。
元がキーボードパートだから単音をはっきり弾く必要がある。なのに指の移動がスムーズにできなくて途切れる。
それから夏樹とのラスト。合わせようと提案したのは俺だ。その方が音色が重なっていいと思ったから。それが全然合わない。正確にいうと、俺が合わない。
夏樹はいつもできるんだ。聞違えることもあるけれどそれはほんの少しだけ。大抵は俺がミスる。何とか成功した時も、俺は手が攣りそうでブルブルしているのにあいつはいつも涼しい顔して弾き終える。
分かってる。
圧倒的センスと練習量と努力。夏樹と俺は違う、敵わないと思うけれど、悔しい。
コックピットを演奏するって決めてから家でもギターの練習量を増やした。それでもできなかった。
あの日、
自分のギターの技量、夏樹に対して抱いていたちょっとした不信感。羨ましい、妬ましい、尊敬、自分への怒り、焦り。心に閉まっていた色んな感情が流れてしまったんだ。
手なんか一ミリも、一秒も抜いていない。血管千切れるくらい集中して弾いている。夏樹に、手抜くなって言われた時、頭の中の何かがキレて勝手に手が出た。
「ギターの天才」そんなこと思っていない。
ギターは決して簡単じゃない。毎日の積み重ねでやっと弾けるようになるもの。そんなこと俺が知っている。けどその時はお互いに必死だったし、色々暴言もブチ撒けあってたからな。
「お前がCyanなんだろ」
勢いでそう叫んだ。
しまったと思ったのはその言葉を言った後だった。マジで後悔したよ。地雷踏んだなって。あれは言っちゃいけなかった。口にのりつけてでも言ってはいけなかった。 面と向かって話す度胸もなかった。
誰かに頼むことも俺の中の小さなプライドが邪魔してできなかった。
そんなものポッキリ折っちまえばよかった。
涼と怜斗にも迷惑かけた
夏樹にもひどいことした
手、出した。
俺は、ーーーーー 最低だ。