Dying music〜音楽を染め上げろ〜
「あれ、夏樹終わったの?」
下に行くとお母さんがテレビを見ていた。
「休憩しにきた。」
冷蔵庫からお茶を取り出してコップに注ぐ。そのままお母さんの隣に座った。
「文化祭出るんでしょ?お母さん、見に行ってもいい?」
「うん。プログラム発表されたら教えるね。」
文化祭…、まだどうなるか分からないけれど、とりあえずそういった。
「ありがとう。」
俺はお母さんの肩にもたれかかった。
「どうしたの?今日は珍しく甘えたね。」
「ねえお母さん、」
「なあに?」
「俺って歌上手?」
急にどうしたの、とお母さんは笑った。
「上手よ。それに夏樹はただ上手ってわけじゃない。」
「どういうこと?」
「兄さんみたいに音楽に詳しいわけじゃないけどね、夏樹って心に訴えかけるような歌い方するなぁって。
心に届く歌。ギターも一緒。あなたの奏でる音は人の心を動かすのよ。」
「そっか…」
よかった。ちゃんと、人の心に届いてたんだ。ほっとした。
「無理に話してってわけじゃないけど.......何かあった?」
その様子を見てお母さんが聞いて来た。さすが、母。気づくの早いな。
「部活のメンバーと喧嘩した。」
「喧嘩?」
そのワードに顔が険しくなる。
「大切な仲間だったから余計に落ち込んでた。」
「そう。」
「でも、先週…音楽の先輩に話聞いてもらってちょっと楽になったの。」
だから、その日帰りが遅かったのね、といった。
「うん。謝りたいけれど、それができなくてモヤモヤしてた。」
コードに話したあと、恭弥や涼たちと顔を合わせる場面は何度かあったのだが、やっぱりどうしていいのか分からなくなってずっと話さずにいる。部活にも行っていないし、合わせる顔がない。
するとお母さんは俺をぎゅっと抱きしめた。
「最近ね、お母さん嬉しかったの。」
「何で?」
「夏樹がお友達を家に上げることなんて初めてだった。あの子たちとお話している時の夏樹、とっても楽しそうだったよ。笑い声、下まで聞こえていたんだから。」
お母さんには小さい頃からたくさん迷惑かけてきた。中学で不登校になったときもカウンセリングを予約してくれたり、高校も一緒に調べてくれて。
Cyanとしてもナツとしてもこんな風に活動できるのはお母さんのおかげ。家のみんなもそう。たくさん助けてくれた。
「大丈夫。その子もきっと夏樹と仲直りしたいって思っているはずよ」
「うん。」
「早く聞いてみたいな〜。私、ちゃんとあなたたちの演奏聞いたことないんだから。」
「…みんなめっちゃ上手くて、かっこいいよ。」
「楽しみね。」