Dying music〜音楽を染め上げろ〜
やっと教室の前に着いた。いつもは1時間で来れるのに,今日はその倍。2時間かけて来た。
一歩一歩が重くて,バス乗った瞬間帰りたくなった。
だから本当に帰った。
そんで,まだ出勤前だったお母さんになだめられて,バスに再乗車したわけなんだけど。
でも、いざ教室を目の前にすると怖くて扉を開けられない。手がブルブルする。
それでもやっと学校来れたんだ。
今日は,逃げない。
ガラッッ。
勇気を出して扉を開ける。
みんなの話し声が止まり,一気に視線が自分に集まる。
ビクビクしながら自分の席に座った。
怖い,怖い,怖い,逃げたい,逃げたい。ー
「夏樹!」
‼︎‼︎
顔を上げると色葉と彩音がいた。
「おはよ!」
元気100%の彩音。
「学校来れたじゃん!偉い偉い。」
色葉は頭を軽くポンポンと撫でた。
「お、」
「おはよう」
緊張が解けて顔がふにゃっとなる。
「よかったー元気そう!」
「学校はいつぶり?てか髪切ったんだね。」
「4日間しか行ってなかったからそれ以来。」
「まだ5月入ったばかりでよかった!これから体育祭も球技大会もあるんだから。間に合ったね!」
「そうだね。」
朝のHRが始まり,担任が話し始める。
「みんな気づいているとは思うが,今日から如月が加わった。休んでいてわからないことも多いはずだから,みんな教えてやってくれ。如月、改めて自己紹介だけ頼む。」
そう言われて教壇に立つ。
「如月夏樹です。体調不良で学校を休んでいました。よろしくお願いします。」
みんながコソコソ周りと話している。
あー…これ多分言っとくべきだな。
「あ,…この髪,よく染めてるって間違われるんですけど、地毛です…」
今度はクラス中が驚きの表情に変わった。
「みんなより遅めのスタートとはなったが,3組40人,仲良く1年間やっていこう!」
HRの後担任に呼び出された。
「いやあ,びっくりしたよ、あの電話。」
カッカッカっと笑って話された。
「急にすみません。」
実は休日中に担任に電話をかけていた。月曜日から学校に行く,と。ついでに麗華ねぇに頼んで美容室連れて行ってもらった。
「でも何で急に学校来ようと思ったんだ?」
「…やってみたいことが見つかったので。」
「そうか,それはよかった。何かあったらいつでも言えよ。」
「はい。」
教室に戻るとすぐに1限の現文が始まった。
「であるからして〜」
この授業の雰囲気,懐かしい。
ふと、隣を見ると隣の席の女の子が焦っている。さっきから筆箱をガサガサと。
あ,もしや?
「あの、よかったらこれ使って。私2個もってるから。」
小声でそう言って消しゴムを渡した。
「マジで!助かる!」
その子はペコペコしてながら受け取った。
授業が終わり、休憩の時間になるとその女の子が話しかけられた。
「夏樹ちゃんさっきはありがとう〜!」
「ううん、気にしないで。」
「私,足立真由《まゆ》。よろしくね!」」
「よろしく。」
「夏樹ちゃんって背高いよね〜。何センチ?」
「前測った時は167センチだったかな?」
「えー!かっこよ!」
「でっしょ〜!うちの夏樹はかっこいいんだから!」
急に彩音が入って来た。
「何で彩音が自慢してんだ笑」
俺も笑いながら突っ込む。
「いいじゃーん♪あ,真由ね,部活一緒なんだー。しかも副級長だよ。」
テニス部なんだ。すごいなぁ。
「正直,最初夏樹ちゃんってミステリアスなイメージあったから話しかけづらくてさ。でも今日お話したらめっちゃ楽しい!」
気づくと周りに女子が集まって来ていた。
「部活とかやってたのー?」
「ちょっとだけバスケしてたよ。」
「そうなんだ!」
「髪の毛もめっちゃ綺麗!」
「これで地毛なの羨ましい〜」
「よく間違われて注意されるんだ。ちょっと大変。」
意外とコミュニケーションとれているんじゃないか?
というか、高校って中学と全然違うんだな。みんないい人っていうか,思ってたのと違った?
そこから3限まで授業受けて昼休み。
色葉と彩音と一緒にお弁当を食べる。
すると何やら廊下から走る音が聞こえた。
……………あ。