Dying music〜音楽を染め上げろ〜
体育祭から1週間たったある日の夜、ある曲が投稿された。作詞作曲編曲、Cyan。曲名は
『何もなかった日常に。』
主人公に毎日新しい出来事が起きて、退屈で引きこもっていた日常が変化していくストーリー。
ピアノ主旋律の穏やかなメロディーに、いつもの Cyanの中性的な歌声、そして少し楽しそうな感じが含まれている。
今までのCyanからは考えられない、曲調と雰囲気。この前代未間の新曲にコメント欄は騒がしくなっていた。
一「今までのCyanと違う!」
一「いつもより優しい雰囲気。Cyanに何があった?」
一「少しずつ頑張ってみようかなと思いました。」
ー「Cyanが歌うことによって男性女性どちらにもとらえやすくてよかった。」
しかもオリジナル曲を出すのは実に1年ぶり。そのことも相まって再生回数はぐんぐん伸びた。
灰色だった毎日に
ほんのり色がついた
僕を外に連れ出した
あと一歩 頑張ってみようかなって
少しだけ進んでみようかなって
前に進んでみようかなって
「コメント欄すげえな。」
師匠がのぞいてくる。
「師匠の言ったとおり、リスナーが騒ぎました。もう 100万超えたんですよ。」
こんなに早く100万回再生させるのは久しぶりだ。
「お前がこんな優しい曲書くなんてな、どういう心境の変化だよ。」
そう聞かれ,黙り込む。
「もしかしてあいつらか?」
「わかりません。ただー」
「あの三人と過ごしていると、少しだけだけど、昔の出来事を忘れられるというか。音が合わさることが面白いなって感じたんです。」
それから心に思ったことを話し始めた。
「今まで俺の生活は灰色でした。ずっとつまらないような、怖いような、そんな感情でした。でもほんの少しの勇気でこんなに変われるんだって。自分の生活に色がついてきたかなって思って。」
体育祭が終わった後、歌詞を少しだけ書き換えた。あの時、みんなで過ごした一日が忘れられなかったから…。
「たわいもない会話や授業が楽しい。だからこの曲を書きました。」
師匠は顔をあげて聞いてきた。
「楽しいか?」
…。
少し考えて言った。
「ちょっと楽しい。」
「そうか、」
そういうと師匠は後ろを向いて楽器の手入れを始めた。
俺知ってるよ、師匠が後ろを向きながら嬉しそうに笑ったの。