Dying music〜音楽を染め上げろ〜
すると夏樹は鼻歌を歌い始めた。
これ前に言っていた新曲か。
あの曲を聞かせてもらったときは驚いた。このメロディーを作ったこともそうだが、歌詞がいつもと全く異なっていた。
ー 新しい居場所ができた気がするからさ。
ー 前に進んでみようかな。
この少し挑戦してみようという思い。どういう変化があったのだろうか。
ふと、急に夏樹の歌が聞きたくなった。
「Cyan。」
「…はい。」
「それ歌ってくれよ。まだ俺ちゃんと聞いていないんだよ。」
「い、今ですか?」
急にリクエストされ、慌てる夏樹。
「おお。」
「緊張するんですけれど。」
「いいじゃねえか。 客もいねえし、失敗してもいいからよ。」
「わかりました。」
夏樹はそういうと声出しを始めた。
いつものルーティーン。夏樹はこの反復動作をすることによって精神統一をさせている。
歌う前、あの鏡の前での動作もそうだ。あれは「夏樹」という人間から「Cyan」という人間への精神移行。
「じゃあ、いきますよ。」
そして夏樹…Cyanはマイクを通して歌いだした。
いい声だ。夏樹の歌声は耳に残る。
少レウェット感があるような、中性的な歌声。高低音の切り替え、Mixボイス、エッジボイスの使い方。そして何よりも歌唱力。感情の乗せ方が格段に上手い。
それもそうか、だって自分の感情や気持ちをそのまま歌っているんだもんな。
ー…もう、高校生か…。
「どうでしたか?」
感想を聞いてくる。
「…楽しいか?」
「最近ずっとそればっかり聞いてきますよね?」
夏樹はふふっと笑った。
「楽しいですよ。お陰様で。」
ー…今が頃合いかもな。夏樹にも新しいステップを踏ませる時期だ。
「夏樹、お前に依頼が来ている。」
「ギター代理ですか?」
「いや、Cyanとして外部からだ。」