Dying music〜音楽を染め上げろ〜
いつものようにMidnightに行ったがこの日もナツの演奏を聴くことができなかった。
(本当にランダム出演なのか〜。)
もう帰ろう、そう思い、通路に入ったときだ。扉の向こう側から歌声が聞こえた。
「♩ーーー🎶♪〜♪ー」
この声!
ガチャ。戸を開けようとしたが鍵がかかって入れない。
「おい、兄ちゃん。そこはプライベートライブの部屋だぜ。」
後ろから急に話しかけられた。
「ぷ、ぷらいベーと…?」
「この店の店長さんが許可した人間しか入れないライブだ。それに、ロックついているから番号入れないと無理だぞ。」
…ウェット感がある中性ボイスで脳みそに残る歌声。歌詞一つ一つが丁寧で、感情がこもっている歌い方。低音域の音が心地よい。この歌声は間違いなくCyanだ。耳を澄ますとギターが聞こえてきた。このギター音…。
「🎶ー🎶♩♪🎶〜〜」
ナツ⁈
どういうことだ?
歌声は、確かにCyanだ。
何回も聞いているから間違えるわけがない。
でも、
ギターの音はナツと一緒。
まさか、
ナツがCyan…………?
すぐ向こう側に、いる。
会いたい、
直接聞きたい、
見たい。
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「その日、結局君を見ることはできなかった。でもね、フェスの時の君のギターの音が、Midnightで聞いたナツとCyanと一緒だった。」
「.......どういうこと。音が一緒って…」
「俺、小さい頃からピアノやっててさ。絶対音感があるんだよ。
ソロパート、緩急のつけ方、音が流れるリズム、他の音と合わさるタイミング。
すべてが似ていた。…癖ってさ、自分が知らない間に定着してしまうものだろ?」
ーーーーーーーーーーーーーー
間違いない、Midnightの子だ。清条の制服…女の子だったのか。Midnightでは分からなかったけど、絶対そうだろ。だとしたら……ー
あの演奏はなんだ?
そんな弱々しい演奏、聞いたことない。Midnightでの演奏はもっと力強いギターだったのに。調子悪いのか?周りに音消されている? よく見ると、バンドメンバーの様子をちらちら見ている。
…遠慮、しているんだ。
他の楽器に自分の音が合わさるようにわざと抑えて弾いている。
いつも通りに弾けよ?あの、体の芯から震えさせるような音を鳴らせよ。俺の知っているお前は、もっと…。
演奏が終わった後、気持ちがすっきりしないまま、席を立った。外に出ようとしたとき、通路の控室から偶然、会話が聞こえた。
ー「最高だったな。」
一「楽しかったなー!また、練習頑張ろうぜ。」
一「ナツキは次の月曜日は休むんだよな?」
ー「うん。Midnightの方で呼ばれた。」
Midnight。
やっぱりそうだ。あの、神がかった演奏をする子。
ナツキ…まだ断言できないが、おそらく、彼女がナツでありCyan。
俺はすぐに行動に移した。半分賭け、もう半分はダメ元。この状況でマスターを通じて
Cyanに依頼をした。返ってきた返事はまさかの承諾。俺の中では「出られません。」で終わると思っていたのに。
そして前回のステージ。
ライフル銃で心臓ブチ抜かれたようなステージだった。この子は、まだ15歳のはずだ。俺と、3つしか変わらない、同じ高校生だ。
なのに、次元が違う。
「歌う」のが上手いというよりかは「感情の乗せ方」が上手い。喉が締まって掠れた高音、苦しみを感じさせるような声の震え方。
Cyan独特の世界観に吸い込まれた。