Dying music〜音楽を染め上げろ〜
「戻りましたー。」
「どうだった?どうせ優勝したんだろう。」
マスターが店内の掃除をしながら尋ねてきた。
「しましたけど、2回戦目にCyanにドローまで持ち越されました。」
「ドロー?随分珍しいな。」
俺だってびっくりした。あのバトルには何度も出ている。優勝だってしてる。ここまで追い詰められたのは久しぶり。
ドローって聞いたとき、めちゃくちゃ嬉しかった。だってあのCyanともう一戦できるんだよ?そんでギアがアガりっぱなし。
Cyan…あの子はまだ自分の限界を知らない。
限界という境界線を超える一歩手前まで来ることはできるのに、そこから引き返してしまう。その線を越えたらもっと楽しくなるのにね。これからが楽しみ。
「マスターはCyanのことどう思いますか。」
はぁ?っと返事をされたが、マスターはしばらく腕組みをすると
「ありゃメジャー行くな。それかどこかの事務所が引っ張るんじゃないか。」
と答えた。
「まだ15歳ですよ?」
「お前だってまだ18だ。」
「そうですけど。」
15歳、今年で16歳か。その年でメジャーデビューする歌い手って今までにいたっけ?
「昔と今とじゃネットの歌い手はだいぶ変わったからな。」
「最近じゃアイドル系も増えてきてますからね。」
「お前もそういう方向を目指すのか?」
まさか。
「いいえ。俺は昔のネット界限のほうが好きです。歌だけ勝負って感じで。Cyanも同じだと思いますよ。」
俺は俺なりのスタイルがあるから、「グループ」活動は向いていない。だって方向性違う奴らとアイドルごっとかしたくねぇし。
Cyanは俺に「何で顔出しするんだ。」って驚きながら聞いてきた。
俺が顔出しながら歌うのは、表情管理もお客さんを盛り上げる一つの材料だと思うからなんだよ。
人の顔って筋肉がたくさんあるから、わずかな動きや動作で人に感情を伝えることができるだろ?
例えば、悲しそうな歌を歌うとき、唇を震わせながら、目少し瞑りながら歌う。
そうするだけでその曲の良さ、歌詞の意味を表すことができるんだ。ちゃんと、俺にも理由があるんだよ?あぁ、ネット上で顔はあげてない。そこは一緒。
「…お前ら二人とも、いいところまで行くんじゃないか?」
「俺もですか?」
「あぁ。それと、あの子は長ちゃんに似ているんだよな。見ているとなぜか昔の長ちゃんに姿が重なるんだよ。この可能性を広げ続けているっつーか。」
「不思議ですね。」
「何かあるんじゃねーかな。師弟関係ならではのなにか。」
師弟関係ねぇー…。
「それよりもさっさと帰れ。あと!あんまりCyanを連れまわすな!正体バレるだろうが!何かあったら俺が長ちゃんにぶっ殺されんだよっ!」
ぶっ殺されるって(笑)でもあの人ならやりかねないかも。だって今日初めて会ったけどマフィアのボスみたいだったからね。
今更だけど、Cyanってちゃんと子供だった。生意気だし、反応とテンションが面白い。
これ本人に言ったらまた「うるせえ」って言われるんだろうなぁwww
……今日、新しい「ライバル」ができた。
潰すとか、負かしてやりたいって感情じゃなくて「共に成長していきたい」って感情。
「よーし、明日新しいの録ってみるかぁ〜!」