あの夏空の下、君と生きた七日間。
「海なし県だからな」

柵に背中を委ねながら双葉と赤木が何気なく呟く。

そう。ここからでは360度、ぐるーっと見渡してみても海は見つからない。遥か遠くにあるらしく、山々がそれを隠すように連なっている。

電車で何時間かかけて行かないと着けないみたいで、僕だって幼い頃に一度だけ、家族と遊びに行ったきりだ。

「海かー。どんなところなんだろ?」

先程まではしゃいでいた千春が首を傾げながら言った。その驚きの発言に3人そろって唖然とする。

「えー!?見たことすらないの?青い海」

双葉が耳を疑っているのは言うまでもない。だが千春はきょとんとしながら素知らぬ顔をで本当だよ、と言うように大きく頷いた。どうやら空耳や、聞き間違いではないんだそう。

「すっげー綺麗なんだぜ。見たことないのが、もったいないくらい。な?白澄」

同意を求めるように赤木が言う。

急に矛先を向けられた僕は一瞬、戸惑いを覚えた。

「ほんと?」

上目遣いで、かがみこむように覗きこんでくる千春。まるで小さな子犬のように、茜色の目をくりくりとさせている。

期待に満ち溢れ、うずうずしているようだ。不覚にも頬が熱くなる。
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