あの夏空の下、君と生きた七日間。
「海原白澄」

夏空を仰ぎ見ながら平然と名乗る。さっきまでは雲なんてひとつもなかった空には細い雲がたなびいていた。

「はくと?不思議な名前ね。聞いたことないや」

そう言いながら千春は呑気に両腕を上げて大きく伸びをする。

いや、不思議なのはお前の第一声の方だ。そう、突っ込みたくもあったが、ついさっきあったばかり。一緒に日々を過ごしてみれば案外、周りのヤツと変わらないのかもしれない。第一、クラスメイトでもないからもう、話すこともないと思うが。

ふと学校指定の深緑の肩掛け鞄につけっぱなしにしている腕時計を見る。そろそろ朝練が始まる頃だろう。ここから高校まではちょうど1キロメートルあるから、走れば3分もしないうちに着くだろう。

河川敷から立ち去ろうとしている僕を知らずに彼女はまた空に向かって祈りを捧げている。ミステリアスな人だなと改めて思いながら早朝ランニングを再開した。


靴紐をきっちり結んでからコートに立つと、目の前に立ちはだかるのはネットという高い高い壁。

その向こうの景色を僕は目にしたことがない。その理由はたぶん、幼い頃からバレーを始めたのに、未だにレギュラー入りを果たしてないからだろう。

でも……。今ではそれ以前の理由がある。
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