泣きたい訳じゃない。
遠距離恋愛の始まりと莉奈の決意
私は今、空港の国際線ターミナルにいる。
カナダの街、バンクーバーへと旅立つ青柳拓海を見送るために。

「次はいつ会えるのかな?私達・・・。」

「夏休み取れたら遊びに来いよ。案内してやるから。」

私は子供の頃に父の仕事の関係で、5年間、バンクーバーに住んでいた。

「バンクーバーなら、私の方が詳しいと思うよ。」

「可愛くないな。莉奈らしくていいけど。」

「泣いた方がいい?」

「泣かれるのは困る。飛行機に乗れなくなるから。」

「嘘だね。」

「ごめん、今のは嘘。」

「浮気したら、ちゃんと言ってね。別れるから。」

「言わない。ていうか、しないし。」

「身体には気を付けてね。」

「莉奈もな。」

「日本からの後方支援は任せてね。」

私は、重くなりそうな空気を必死で追い払う。
 
拓海は一瞬だけ強く私を抱き締めた。

「ありがと。笑っててくれて。」

そんなこと言われたら、もう絶対泣けない。
私は、最後まで無理に笑って、拓海を見送った。

大きく手を振る私に小さく手を挙げた拓海は、ゲートの向こう側に消えて行った。
後ろ姿が消えたと同時に、私の視界は涙で歪んだ。
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