泣きたい訳じゃない。
波乱の始まり
拓海と兄は、その後上手く話を進めているようだ。

拓海から「デュアルレジデンス」との契約書を作成する様にとメールが届いた。

それに、兄との関係を聞かれることもないので、兄は私との約束を守ってくれてるようだ。

今日は、その兄の家に朝から向かっているのだけれど。

3日前に『葵の誕生日会をするから、莉奈も参加しろ。』とほぼ命令口調の連絡が入った。

両親はで旅行中で参加できないらしい。
昼からは高田ホテルズの社長ご夫妻も来るみたいだ。

「普通は、可愛い孫の初めての誕生日に旅行に行くか?あの親達は何を考えてるんだよ。」

そう言われて、私は断ることが出来なかった。

日曜の朝は、拓海との唯一の時間だけど、姪っ子の葵ちゃんは可愛いし、たまには仕方ない。

拓海がカナダに行ってから、週末に朝から出かけるなんてなかった。久しぶりの予定に私も楽しくない訳ではない。

兄の家に到着すると、奥さんの真美さんが出迎えてくれた。

兄はリビングで葵ちゃんと遊んでいだ。

キチンと片付けられたリビングに、窓からの光が差し込み優しい空気に包まれ、幸せな家族の象徴のようだ。

「葵ちゃん、おはよう。お誕生日おめでとう。」

葵ちゃんは私を見ると、固まってしまい兄にしがみついた。

「そうか、葵はこのおばちゃんが怖いのか。」

「おばちゃんは止めてよ。」

兄はすっかりパパの顔だ。
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