泣きたい訳じゃない。
私はゲストルームを借りて、拓海からの電話を取った。
外出だと言ったのにテレビ電話だった。

「おはよう、莉奈。今日は化粧してるんだ。莉奈のその姿を見るのは久しぶりかも。」

いつもは寝起き姿のままの私だけど、今日は髪もカールして化粧もしている。
ちょっと、拓海の言葉に反省する。

「そうだね、いつもごめんね。寝起きのすっぴんで。」

「俺は莉奈のすっぴんも好きだよ。髪がボサボサなところも。」

「今のは嫌味?」

「違うよ、いつも頑張る莉奈が気を抜いてる感じが好きなだけ。で、今日はどこにいるの?」

「うん、ちょっと招待されて。」

「どこに?いつもは予定があっても昼からとかじゃないか?」

「今日はちょっと特別な日だから。」

「俺より特別なこと?」

やけに絡んでくるなぁ。

「そうじゃないけど・・・。」

私はできれば、拓海とは兄の話を避けたかった。
拓海が兄のことをどこまで知っているのか、分からないから、勘のいい拓海が何で気付くか分からない。

それなのにタイミング悪く、部屋のドアが開いて、兄が顔を覗かせた。

「莉奈、こんなとこで何してるんだよ。」

「友達と電話!」

「俺、予約してるケーキを取りに行くけど、莉奈は飲み物とか何かいるか?」

「大丈夫。ありがとう。」

兄は部屋を出るかと思いきや、不意に私の携帯を覗き込んだ。
そこには、何とも言えない拓海の顔が写っている。

「莉奈、男か。後で話を聞くからな。俺が戻るまで、帰るなよ。」

そう言うと、兄は険しい顔で部屋を出て行った。

まさか、二人同時に存在がバレるとは・・・。
最悪だ。
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