泣きたい訳じゃない。
「あのね、実は来月、兄がバンクーバーに出張するって言ってたの。拓海、聞いてる?」

「いや、まだ・・・。」

「そっか、でもその時に拓海にも会うつもりだって言ってたから、週明けには兄から連絡があると思う。」

「高田さん、今日、俺の顔見たよね?」

「うん、たぶん。」

「じゃあ、会うとなるとバレるかな。」

「分からないけど、兄は人の顔を覚えるのは得意な方だとは思う。」

「そっか。どうしよ?」

俺は、さっきの安堵感から急に不安が押し寄せてきた。いつかは対面しなきゃいけない人なのに。

「最初に嘘を吐いたのは私だけど、拓海は私との関係がバレるとそんなに困る?」

莉奈が画面の向こうで悲しそうな顔をしているのに、初めて気付いた。
俺は、自分の保身しか考えてなかった。

「ごめん、そんな事ないよ。莉奈の家族なんだから、いつかは会う人達だと思ってる。ただ、急な展開だったから驚いてるだけ。俺はどっちかと言えば、高田さんと莉奈の男女の関係の方が気になってたから。」

俺の方が嘘吐きだ。

「それはないよ。それに他の人ともね。」

「そうだな。よく考えると、莉奈も忙しくてそんな暇もないだろうし。忙しくさせてるのは俺だけどな。莉奈のサポートには本当に感謝してるよ。」

「お役に立てて何よりです。」

莉奈が笑った。
俺はこの笑顔を絶対に失いたくないと改めて心に誓った。

その為には、来月の高田さんとの対面までに何とかしなければ・・・。
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