泣きたい訳じゃない。
俺はソファに座って、持ってきた資料を高田さんに渡した。

「内容はメールと電話で既にお伝えしている通りです。」

「青柳さんは新事業を任されるぐらいだから、会社でも有望視されてるんだろうね。」

「いえ、まだまだ未熟ですので、周りに助けられながらやっています。でも、今回の新規事業は必ず成功させたいと思っています。」

「僕も君となら、バンクーバーでのシェアハウスの事業を拡大してもいいと思っています。」

「ありがとうございます。」

それから高田さんと細かい調整、これからの展望を確認し合い、どんどんと話を進めていくことができた。

これなら絶対に上手くいく。そう手応えを感じられて、商談は終わった。

後は、契約書にサインをもらうだけだ。
最後に、鞄から契約書を取り出した。

「高田さん、こちらの契約書にサインを頂けますか。」

もちろん直ぐにサインをしてもらえるものだと思っていた。

「青柳さん、あなたは高田彩華さんと以前にお付き合いがあったんだよね。」

高田さんは今までと変わらぬ口調だった。

俺は思わず、「はい。」と返事をするところだった。事実ではあるけれども。

「どういう意味でしょうか。」

「男女の付き合いがあったか。と言う意味だけど。」

「何故それを?」

「僕は高田ホテルズの婿養子だ。彩華さんは僕の義理の妹になる。これから、長くお付き合いしていく関係で私情のわだかまりを残したくないからね。」
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