泣きたい訳じゃない。
ロングステイ用のホテルは、ミニキッチンも付いていて、快適に過ごせそうだ。

私は暗くなる前に、買い物で出掛けた。日本からは最小限の荷物しか持って来なかったので、ドラッグストアでスキンケア用品やレトルト食品などを買い込んだ。

ホテルに戻ると、携帯が鳴った。
本当は買い物をしてる時にも携帯が鳴っていたのに気付いていたけど・・・。

「もしもし。」

「莉奈、どうして携帯に出ないの?ロスには無事着いた?」

「今、ホテルに着いた。さっきまでロスのオフィスにいたの。」

「無事なら良かったよ。ロスは日本のように治安がよくないし、電話の電源も切ったままだし、心配してた。」

私は拓海の優しさを忘れていた。
どんな時でも、私をちゃんと気にしてくれている。

「ごめんなさい。空港には谷山さんが迎えに来てくれたし、ホテルにも送ってくれたから、大丈夫だよ。」

「莉奈に会えるロスのメンバーが羨ましい。俺も莉奈に会いたい。」

そんな風に言われるのは、離れてから初めてかもしれない。

「どうしたの?急に。」

「どうしたのって。莉奈は俺にもう会いたくないの?」

「そんな事ないよ。」

私は『会いたい。』とは敢えて言わなかった。
ロスへの出張が決まった時から、自分の気持ちが少しずつ変化しているのを自覚している。

「本当に?俺、莉奈に嘘を吐いていたのに?彩華のこと、お兄さんから聞いたよ。」

拓海から「彩華」と言われると、現実味が増す。

「兄の家で彩華さんに会った時、拓海との事は聞いてた。でも、拓海が言わないなら聞けないって思ったの。私達は、今、喧嘩できる程近くないから。」

「遠いのは距離?それとも二人の心?」

寂しさで泣いてる方が心の距離は近いのだろうか。
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