泣きたい訳じゃない。
「誰との約束ですか?課長?」

「違うよ。青柳!」

「はっ?」

「青柳に渋谷さんの事を相談した時に『絶対に危険な目には遭わせないように。』って、オフィス全員のメンバーが約束させられた。もちろん、約束がなくても、僕達はそうするつもりだったけど。」

拓海はそんな事、一言も言ってなかったのに。

「青柳の渋谷さんへの愛は、ロスにいた頃から半端なかったからな。」

『愛』とか日本の男性が言うんだ。アメリカに長く居ると、それが自然になるんだろうか。

それよりも、谷山さんに私達の関係を知られてるの?

「あの青柳さんとは、別に・・・。」

言いかけた私を谷山さんが笑う。

「今更、何を隠そうとしてるの?少なくともロスのメンバーはみんな知ってるよ。」

「誰に聞いたんですか?」

「もちろん、青柳だよ。『俺の莉奈には手を出さない様に。』って通達を出してたぐらいだから。」

私は顔が真っ赤に染まっていくのを自覚する。

「恥ずかし過ぎる・・・。」

谷山さんが楽しそうに笑っている。

「渋谷さんでもそんな可愛い顔をするんだね。いつもは、凛とした綺麗な印象だけど。」

その言葉に更に恥ずかしくなる。アメリカは日本人男性の習性を変えてしまう国なのか。

「谷山さん、揶揄わないでください。約束があるなら早く帰りましょう。」

私達は車に乗り込んで、オフィスを後にした。
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