泣きたい訳じゃない。
拓海は私を抱き上げて、そのままベッドに倒れ込んだ。

全身が心臓になったみたいに、音を立てている。
拓海の頬にそっと触れてみた。

温かい感触が指先から伝わる。

「本物だ。」

拓海はその手を取って、唇を寄せた。

「莉奈が腕の中にいる。ずっと、こうしたかったのに、俺は今、震えが止まらないよ。」

「私、本当は寂しかった。ずっと拓海に会いたくて、触れて欲しくて。」

「そんな風に言われたら、俺は莉奈を壊しちゃうかも。」

拓海は私を抱き締めて、首元にキスを落とす。

「拓海、壊して。」

今は、彩華さんのことも兄のことも、全てを忘れて、私の全部で拓海を感じたい。

拓海の舌が私の身体を這っていく。着ていた服は、一枚ずつ脱がされて、ベッドの下へ落とされた。

拓海の全部で、私を目覚めさせ、悦ばせる。
拓海のキスがあらゆる所に落とされる度に、抑えきれない吐息が漏れ、拓海の動きが激しさを増す。
私は意識を手放なさないように、シーツを握り締めた。

愛される悦びが押し寄せる。

私は拓海の下着に手を掛けた。
拓海にも悦んで欲しかったから。
私の愛を感じて欲しかったから。

少し驚いた目で私を見た後、私の唇を塞ぎながら、自分で下着を取った。

拓海のシルエットはとても綺麗で、私はこの人が好きだと改めて思った。

私の全部で拓海を悦ばせる。拓海が時々、大きく息を吐く。

「莉奈は俺を壊す気か?」

溜め息混じりの声に私は微笑んでみせた。

「もう容赦しないから。」

拓海は私を組み敷いて、熱くなった愛の塊を私の中に滑り込ませた。

拓海が動く度に、拓海の指が触れる度に、拓海の汗が滴り落ちる度に、吐息が漏れ、小さく声を上げた。

「離さないから。」

拓海が私を抱き締めてた時、私達は同時に意識を手放した。

目を覚ますと、拓海が私の隣で眠っていた。
同じ夜を過ごして、一緒に朝を迎える。

私がずっと願っていたことが、こんな風に叶うなんて思ってもいなかった。

拓海の頬に触れると、やっぱり温かい。
私はそれだけで幸せだった。

私達は、朝まで抱き合いながら眠った。
< 59 / 70 >

この作品をシェア

pagetop