泣きたい訳じゃない。
バンクーバーでの修羅場
バンクーバーの空港に到着すると、拓海が迎えに来てくれていた。

「どうバンクーバーの空気は？」

私は空港の外に出ると、大きく息を吸い込んだ。
もう夜の9時を過ぎているのに、まだ夕方ぐらいの明るさだ。

「懐かしい匂いがする。」

どの国にも、それぞれの匂いがある。

「拓海はバンクーバーを好きになった？」

「いい街だよな。それに莉奈が育った街だから、俺にとっても大切な場所になった。ここで、早く事業を形にしたい。」

拓海の想いが伝わってきて、ジンとした。

「後、どれぐらいかかりそう？」

「ちゃんと軌道に乗せるには、まだ二年はかかるかな。」

それは少なくとも拓海が日本に帰国しない年数で、その先もどうなるかは分からない。

「拓海なら絶対、成功できるよね。」

拓海が私を引き寄せて、抱き締めた。

「莉奈が応援してくれるなら、俺は頑張れる。」

「ずっと応援してるよ。拓海の家に帰りたい。」

私達は、パーキングに停めていた拓海の車で拓海の住むアパート（マンション）に向かった。

車窓からの風景、全てが懐かしい。

バンクーバーは、世界でも住みやすい街に毎年のように選ばれている。そんな住宅街を抜けて、ダウンタウンに向かって走って行く。

東京でもロスでもないこの街並みが私はやっぱり好きだ。
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