契約期間限定の恋。
 本日の業務は終了致しました。
 シンプルなパネルを立てて荷物を纏め、女子更衣室とは名ばかりの受付嬢専用ルームのようなロッカーへ向かう。
 途中で別部署のおじさん社員に労いという名の飲み会を持ち掛けられたが、笑顔とあいさつだけを返してその場を後にした。おじさん達のお酌をするなんてごめんだ。
 華やかなロビーとは掛け離れた無機質なロッカールームに先客がいることはまずないので、ほとんど私の美川さんのプライベートゾーンだ。
 野暮ったいベストとタイトスカートを脱いでハンガーに掛け、私服に着替える。
 なんの面白みもない黒いパンプスから華やかで踵の高いヒールに履き替えると、扉の内側についた鏡でメイクを直す。
 浮いた皮脂を丁寧に取ってパウダーを乗せ直し、滲みかけたアイラインを綿棒で拭う。
 コンパクトなホットビューラーでまつ毛を上げ直せばまつエクなんて必要ない。
 三つ編みとお団子で一纏めにしていた長い黒髪をほどいて軽くとかせばゆるふわパーマ風の髪型に変貌を遂げる。
 前髪を斜めに流し、仕上げにマット感の残るリップを控えめに塗って完成だ。我ながら、これぞアフター5のOLと言わんばかりの仕上がりな満足した。
 バン!と粗雑にロッカーを閉めて更衣室を出たところで先程のおじさん達が偶然を装って前を通ったので、仕方なく正面玄関まで御一緒してから満面の営業スマイルでお見送りをした。
 美川さん、出会いは転がってるんですよ。貴女は詰めが甘いのと、選り好みをし過ぎているだけなんです。
 今頃まつ毛を埋め込みながら、サロンのお姉さんに恋愛のなんたるかを説いているんでしょうね。お疲れ様です。
< 5 / 10 >

この作品をシェア

pagetop